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新たな革新的技術の導入: 病院が拡張現実(AR)に注目する5つの理由

拡張現実(AR)は、現在ヘルスケア分野に導入が進みつつある技術の一つであり、大きな注目を集めています。診断や治療への取り組み方から、医療従事者のトレーニング方法に至るまで、医師や医療専門職の業務の在り方を変えていく可能性があります。本記事では、現時点での技術的な制約があるにもかかわらず、先進的な病院がAR技術に注目すべき理由を、5つの観点から紹介します。
1. ポイント・オブ・ケアにおいて3Dプリンティングと高い相乗効果を発揮するAR
3Dプリントモデルは、教育、計画立案、そして医師や患者間のコミュニケーションにおいて有用であることが示されてきました。近年では、450を超える病院がポイント・オブ・ケアにおける3Dプリンティングを導入し、エンジニアリングチームが幅広い臨床領域における複雑な症例の計画を支援するプロセスを確立しています。
一方で、3Dプリンティングには専門的な知識、人材、設備が必要となり、それに伴って治療コストが増加する場合があります。その結果、こうしたサービスの恩恵を受けられる患者数には限りが生じることもあります。ARは、より多くの患者に3Dサービスを活用する可能性を広げる手段の一つとなり得ます。セグメンテーション、計画、デザインといった工程は、3Dモデルをどのように可視化・活用するかにかかわらず、3Dモデリングプロセスの中核を成す要素であり、3Dラボにとっては、既存の3DプリンティングプロセスをARワークフローにも活用しやすいことを意味します。
ARやVRといったXR技術は、3Dモデルを扱うためのデジタル技術として高い親和性を持っています。従来の2D画像や3Dボリュームレンダリングと比較すると、3Dモデルは比較的コンパクトで、視覚的に把握しやすく、操作もしやすい特長があります。臨床エンジニアは、未処理の医用画像では捉えにくい解剖学的特徴を強調したり、治療を担当する医師が手術計画を検討したり、他の医師や患者と症例について議論したりする際に役立つ3Dビジュアルを作成することができます。
こうした共通点から、3DプリンティングとARは非常に補完的な技術と考えられており、3Dラボは症例ごとに、どの可視化手法が最も適しているかを判断することができます。
2. 高速でコスト効率よく拡張できるAR
3Dプリンティングは、整形外科、頭蓋顎顔面外科、心血管領域などで積極的に採用されてきましたが、外傷外科や腫瘍学などの分野では、いまだ十分に活用されていないケースもあります。これは、これらの領域において3Dの価値が低いからではなく、3Dプリンティングにかかるコストの高さ、技術や設備の制約、あるいはリードタイムの長さが主な要因となっています。
ARのようなXR技術は、術前および計画された術後の状態を3Dでほぼリアルタイムに可視化できる点が特長であり、短い時間軸での対応が求められる複雑な外傷症例において、医師が状況を把握し検討するための情報提示手段として活用が検討されています。これは、工程が長く、多くの関係者との調整を必要とする3Dプリンティングとは対照的であり、緊急性の高い状況では課題となる場合があります。
コストの観点から見ても、ARは、これまであまり活用されてこなかった分野における3Dモデリングや計画立案の拡張性を高める可能性があります。腫瘍を含む多くの症例は3Dプリンティングに適していると考えられていますが、腹部や肝臓、腎臓腫瘍などの大型かつ多色の3Dプリントモデルは、コスト面で大きな負担となることがあります。施設によっては、必要な設備を院内に持たず、外部サービスに依存せざるを得ない場合もあります。また、細い血管構造などが重要な要素となる場合には、プリント可能なモデルにするために大規模な設計作業が必要になることもあります。
こうしたケースでは、ARは、治療計画を検討するための3Dモデルを医師に提示する手段の一つとして、比較的低いコストと労力で活用できる可能性があります。タブレットやPC上の通常のビューアーで十分と考える人もいる一方で、立体的な把握やインタラクション、作業を行いながらモデルと関わることができる点を、ARの付加価値として評価する人もいます。


3. 3Dモデリングワークフローに柔軟性とダイナミクスをもたらすAR
特定の臨床シナリオでは、3Dプリントモデルに対して特有で、時に複雑な設計要件が求められます。たとえば、小児の心臓のように非常に小さな解剖構造では、視認性を高めるために拡大してプリントすることが有効な場合があります。また、術前の状態と計画された解剖状態を比較するために、複数のプリントが必要になるケースもあります。教育目的では、磁石を用いて解剖学的パーツを組み立てられるような複雑なデザインが採用されることもあります。
このように、3Dプリントモデルは完成後に変更できない静的な特性を持つため、その潜在的な価値を最大限に引き出すには、事前に綿密な計画を立てる必要があります。
また、3Dプリントは解剖学的な3D可視化以外の情報を含める点でも制約があります。トレーサビリティのためのラベルなど、限定的な患者情報を付加することは可能ですが、解剖学的ランドマークの詳細な注釈や、計画に関連するデジタル測定値を含めることは容易ではありません。このような場合には、3Dプリントをデジタルレポートで補完する必要があります。
AR技術は、保持・提示できる情報量において、より高い柔軟性を持っています。追加コストなしで複数の3Dモデルバリエーションを提供できるほか、注釈や測定値を付加することも可能です。ズームを含むモデルの修正はユーザーがインタラクティブに行うことができ、動的なコンテンツを統合することもできます。エンジニアリングチームが、計画内容を医師にどのように伝えるのが最適かを検討する中で、今後さらに多くの可能性が見いだされていくでしょう。現在は、その可能性の一端が見え始めた段階に過ぎません。
4. 多様な環境においてパーソナライズされたデータへのアクセス性を高めるAR
医療分野では、患者の治療中に3Dモデルや計画データへアクセスできることが、その価値を十分に引き出す上で重要です。しかし、従来の表示システムは、人間工学的な制約や操作性に課題があり、特に手術室などの環境では、医師が3Dデータを自在に扱うことを難しくする場合があります。
こうした課題に対し、ARは、ワークフローや部屋のレイアウトに合わせて3D情報を整理・配置できる点で利点を提供します。また、ジェスチャーインターフェースを用いることで、従来の入力デバイスを介さずにデータを選択・操作することが可能となり、視覚情報の取り扱い方に新たな選択肢をもたらします。
このように、ARは、3Dモデルや計画データを扱う際に、医師がより柔軟に情報へアクセスし、活用するための手段として、医療分野における価値が期待されています。
5. 教育および研究におけるARの可能性
XR技術の教育的な利点は広く認識されています。解剖学的知識の習得、術前計画、手技トレーニングなどを目的とした教育プログラムに、比較的容易に組み込むことができます。同時に、こうした技術の将来的な発展は、それを使いこなす専門家の育成によって支えられます。この考え方は、技術人材不足への対応として教育投資の重要性を指摘するEUの提言とも一致しています。
そのため、教育プログラムを有する病院では、現時点のXR技術を活用しながら教育カリキュラムを改善し、技術への理解を広め、将来の利用者がデバイスやアプリケーションに親しむ機会を提供することが重要になります。こうした取り組みは、技術の成熟に先んじて能力を高め、より専門的な応用が可能になった際に有利に働くと考えられます。
研究プログラムを有する病院にとっても、AR技術を研究活動に取り入れる機会があります。多くの潜在的な利点は仮説段階にあり、現在も検証が進められています。今後数年間で、新しいAR製品の大規模な検証を行い、将来的な臨床パスウェイの中で持続可能な位置づけを確立することが求められるでしょう。特に、業務効率や患者の治療およびアウトカムへの影響といった観点では、パーソナライゼーションにおけるXR技術の価値を示す余地が多く残されています。
さらに、現時点のARウェアラブル技術を活用することは、個人や組織が技術の発展に貢献する機会にもなります。アーリーアダプターからのフィードバックは、メーカーや開発者が改善点を特定し、ユーザーのニーズにより適した製品へと進化させる上で重要な役割を果たします。
パーソナライズドケアの未来におけるARの役割
拡張現実、とりわけARは、パーソナライズドケアのさらなる発展において重要な役割を担うと考えられます。ARは、直感的で使いやすく、没入感のある形で情報へアクセスし、患者の治療に関連するプロセスを支えるための技術として位置づけられています。私たちは、ARが、個別化された治療プロセスを管理するための情報環境の一部として、医師の業務を補完する役割を果たしていくと考えています。
医療分野はますます複雑化・専門化しており、取得・処理されるパーソナライズされたデータも増え続けています。これらのデータを、高品質かつ持続可能なケアパスウェイに活用したいというニーズは今後も高まるでしょう。AR技術をさらに発展させることで、将来的にこうした複雑性に対処するための技術要素の一つとして、ARが適切な役割を担うことが期待されます。
L-103318-01
※本記事は、拡張現実(AR)技術の一般的な活用可能性や研究・検討動向について紹介するものであり、特定の医療行為、診断、治療、またはその効果を示唆・保証するものではありません。
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