Yui Takahara 10月 29, 2015

ボートのプロペラに接触し、くちばしの大部分を失ったウミガメ。食べることも泳ぐこともできなくなったこのウミガメを救ったのは、熱心なボランティアによるケアと3Dプリントされたチタン製のインプラントでした。

動物救助チームがトルコ南西部、ダリアンの海で負傷した45キロのウミガメを発見したのは、今年春のこと。ボートのプロペラとの接触によりくちばしの3分の2を失ったウミガメは動くことができず海に浮いていました。ウミガメの研究、救助、リハビリを行うダリアン・イズトゥズ・パムッカレ大学(PAU) に運び込まれたとき、このウミガメは口の近くに空いた大きな穴と大きな精神的ショックにより、自力で食べることも泳ぐこともできない状態でした。

 

くちばしの欠けたウミガメ。3Dプリンタ製インプラントでの治療前の写真です。

くちばしの欠けたウミガメ。3Dプリンタ製インプラントでの治療前の写真。

 

ウミガメはその後しばらくボランティアの手から餌を与えられたおかげで体力が回復。最終的にウミガメを自然に戻すため、失われたくちばしを治す方法を探り始めたボランティアが行き当たったのは、顎用インプラントを3Dプリントする案でした。 ボランティアが最初にコンタクトを取ったのは、BTechイノベーションと呼ばれるトルコの3Dプリントサービス。彼らはウミガメ救助をサポートすべく、無償で3Dプリントサービスを提供することを決めます。BTechイノベーションはまず、ウミガメのCTスキャンを元にくちばしと口角部分を完全再現した3D生体データを制作。この3Dデータ制作に使われたのがマテリアライズのソフトウェア、Mimics®イノベーション・スイートでした。ウミガメの生体構造や組織はヒトと全く異なるため、くちばしを再現するまでには試練の連続だったといいます。

 

Mimics と 3-maticを使い設計されたウミガメ用インプラント

生体工学用ソフトウェア、Mimics と 3-maticを使い設計されたウミガメ用インプラント

 

幸いなことにウミガメは既に成体だったため、将来くちばしの大きさが変わるリスクはありません。3Dデータが完成すると、BTechイノベーションは獣医師や外科医の力を借りつつインプラントの設計を開始。3D生体データの工学的分析を得意とする3-maticを用い、くちばしの欠けた部分を補うインプラントを生体データ上に直接設計しました。外科医からの承認を得たインプラントは医療用チタンで3Dプリント後、手術が行われるダラマン市へ輸送されました。

 

3Dプリントされたチタンインプラントを固定したあとのくちばし

手術を経て、3Dプリンタ製インプラントがウミガメのくちばしに固定された。

3Dプリンタ製インプラントをウミガメに適用する珍しいケースとなったこの手術には、多数の外科医が参加。結果インプラントは無事に複数のネジでくちばしに固定されました。「リハビリセンターを訪れて、我々の3Dプリントしたインプラントがウミガメの動く顎の一部になっているのを見たときは感動しました」とBTechイノベーションのCEOアクタス氏。人間の患者用向けの複雑な設計には経験があった同社ですが、ウミガメのインプラントを設計するのは非常に困難だったと同CEOは語ります。「45キロのウミガメはかなり大きな動物で、噛む力も非常に強い。だから運動分析や有限要素構造解析を入念に行って初めて、インプラントの造形が可能になったんです」

3Dプリンタ製インプラントをはめ込んだくちばしを持つ、世界最初の動物となったこのウミガメは、現在リハビリセンターで体力を回復中。既にくちばしを動かすことができ、もうすぐ食事も自ら行えるだろうと予想されています。リハビリを全て終えたこのウミガメがまた大海原で泳げる日も、遠くなさそうです。