Shoko Ohashi 11月 19, 2019

9月7日土曜日、循環器領域の先生方にお集まりいただき、Materialise C&V meetingを開催しました。 循環器領域での3Dシミュレーションや3Dモデル活用が広がる中で、日本での導入や活用の実際とは。それらを日頃から活用している先生方に活用の工夫を共有いただきました。

また、循環器領域の生体力学について研究をされている大谷先生に「4D医用画像から心臓の中の流れを計算する」と題して、ご講演いただきました。今回は、臨床の先生方からも反響の大きかったその大谷先生の特別講演から、先生の研究内容にフォーカスして紹介いたします。
医用画像から心臓の中の流れを計算する上での難しさやその解決法とは。そして、そこでMimicsはどのように活用されていたのでしょうか。

 

Mimicsによる心臓のセグメンテーション

 

血流と数値流体力学(CFD)

―研究の目的―

この研究の始まりは、「心原性脳梗塞のリスクを予測すること」でした。
左房は加齢などの影響で、線維化、心肥大・機能低下したり、心房細動が起きたりすると、血流が停滞し、血栓が形成され、脳梗塞や認知症を引き起こすと言われています

 

Risk markerとして、以下のようなものが挙げられます。

  • 左房肥大
  • 左心耳肥大・左心耳形状
  • 左房線維化の進行
  • 洞調律時の左房機能低下
  • 洞調律時の左心耳機能低下

 

上記は、それぞれ独立した指標として使用されていました。そこで、これらの患者個別の条件を考慮した血流計算により、直接的に血栓形成のリスクを評価できるのでは?と考え、この研究が始まります。

 

―血流計算のメカニズムー

血流計算を請け負う会社が立ち上がるなど、血流計算は臨床現場での応用が進んできています。そのような中で、「CFD」という言葉を耳にすることも多くなってきました。CFD(Computational Fluid Dynamics) とは、「流れ(流体)の運動方程式を計算で近似すること」です。

難しそうに聞こえる血流計算ですが、基本的には質量保存則と運動量保存則がベースとなっています。運動量に関しては、微分方程式の形で流れの速度と流れの中の圧力を変数とした運動方程式によって計算しています。

 

―CFDの難しさと手順―

ただ、コンピューターを使ってこの計算をする場合、コンピューターでできるのは四則演算だけであり、この方程式をそのまま解くことはできません。そこで、計算領域を微小領域に分割し、四則演算でこの微分方程式を解きます。

そこには、まだ解決すべき課題が複数あります。

 

一般的なCFDの難易度は、以下によって左右されます。

  • 速い流れか?(層流or乱流)
  • 流れの周囲の壁は動くか?(移動境界or固定境界)
  • 流れの粘性は速度に依存するか?
  • その他計算条件:流路形状の複雑性は? 入口・出口境界条件の設定はどうする?

 

では、血流CFDの場合はどうでしょうか。

  • 速い流れか?に関しては、多くの場合は層流ですが、対象とする部位によって異なります。心臓、大動脈は乱流と考えられ、比較的速い流れといえます。
  • 流れの周囲の壁は動くか?については、当然動いており、その影響を受けていると考えられます。
  • 流れの粘性ですが、血流は赤血球の凝集の影響が顕在化するケースがあり、対象によって考慮する必要があります。
  • 流路形状は複雑であり、入口・出口境界条件の設定も非常に難しいと考えられます。

 

このような難しさがある中で、どのようにCFDは血流計算に使われているのでしょうか。
現在ある商用ソフトは、仮定を入れることで、これを可能にしています。
最近のCFDの具体的な臨床応用としては、小児のフォンタン手術のシミュレーションや動脈瘤の破裂リスク予防などがあります。

CFDの一般的な方法論は以下の通りです。

  • 患者の医用画像から流路形状を抽出
  • 生理学的に妥当な範囲の計算条件を設定(粘性は一定値)
  • 血管壁の動きは無視できるほど小さいと仮定

 

―心臓の流れのCFD―

それでは、心臓の中の流れにおいても、壁が動かないという仮定を採用できるでしょうか。

 

考えうる解決法としては、心筋の収縮を考慮した流体構造連成問題があります。 これは、一番リアルに近い条件で患者個別の計算ができます。一方で、心筋の生理学的モデル化が非常に困難で、計算条件の複雑化による計算コストが大きいことが難点となります。

 

次に考えられるのは、計算される壁面の運動自体を境界条件としてCFDに設定することです。 この方法をとると、普通の支配方程式に変更なく境界条件が変わるだけで計算できます。けれども、計測情報に結果が大きく依存することが、解決すべき課題となります。

 

全体的に考えると、後者が、実現可能性が高くこの問題を解く上では妥当と考えられました。

 

―4D-CT画像からの左房運動抽出―

上記をベースに、4D-CTから抽出した左心系の内腔形状をそのまま使い、内部血流を解くということに発展していきます。

 

元データは20位相の心拍の三次元画像データでしたが、運動や造影剤の濃淡に起因するアーチファクトやデジタルデータ特有の限界を抱えていました。

 

物理学における「運動」の定義は、「一定時間内における物体点の位置の変化」です。けれども、画像からは心壁の物体点を抽出できず、物理的に正しい運動場は、原理的に表現できません。

 

そこで、機械学習(統計的最適化)により左房変位場を画像から推定する方法を試みます。けれども、4D-CT画像はPhaseを持っており扱いが難しく、通常の方法であれば関心領域を抽出するには手間と時間を要します。
Mimicsには、半自動的に左房の輪郭形状を抽出できる機能があり、ここにかかる時間と手間を大幅に短縮できました。この機能を使用して、抽出した左房を三次元的に構築しSTL化(小さな三角形の集合体で立体形状を表現)します。そして、これを20位相の画像すべてに実行することによって、心拍中の全位相での左房の輪郭形状を取得しました。

 

さらに、基準となる左房形状をあらかじめ作成しておき、統計的最適化により、画像から抽出した輪郭形状にフィットするように左房の基準形状を変形させます。この操作を全位相で行い、心拍中での左房の変位場を推定し、性能評価を実施しました。今後、左心耳と境界部の精度を上げる必要はありますが、全体的にはほぼ同じ動きを再生できました。

 

そして、このモデルの壁の動きを流れの計算に応用します。流れの支配方程式は、質量保存則と運動量保存則を使い、計算条件は以下の通りに設定しました。

 

  • 密度:1.05×103kg/m3
  • 粘性:3.5×10-3Pa·s

(粘性は一定(ニュートン流体)を仮定)

 

残すは、4本ある肺静脈と僧帽弁の流れの設定です。

 

僧帽弁が閉じているときは、左室が収縮し左房が拡張していき、血管壁が開いていくと自動的に肺静脈に血液が流れます。一方で、僧帽弁が解放されると左室が拡張されて、左房が収縮し、左室への流れが出来、同様に肺静脈から流れが入ってきます。肺静脈は逆流する場合もあり、その場合にはすべて外向きの流れとなります。

 

僧帽弁からどれだけ左室に流れ込むかということは、左室の解析データより判断できます。 肺静脈に関してはわかりませんが、僧帽弁の方から吸われる量はわかっているので、それをシミュレーションすることとしました。 少し乱暴な条件ではありますが、以上によって、人それぞれの左房の形状と動きと流れの総流量を設定できました。 そして、以下の境界条件を使って計算を行います。

 

  • 肺静脈 全圧境界(全圧=0Pa)
  • 左房-室接合部 壁境界(僧帽弁閉鎖時)
  • 流出境界(僧帽弁開放時)
  • 流量 CT画像から計算した心室の体積変化から算出

 

―CFDの臨床応用―

最後に、CFDによる血流計算は、臨床研究に応用可能なのでしょうか?

 

心臓壁の変形により、流体領域の計算格子が大きく変形したり、最悪破綻してしまうことが考えられ、非常に難しいと言えます。これに対して現在出来る唯一の対処法は、症例ごとに適切な計算格子を丁寧に作成し、何度もトライすることのみです。けれどもこれは、リソースの問題もあり出来る限り避けたい方法です。

 

そこで考えたのが、ボクセルを直接血流計算に使用すること。計算領域全体を交格子に分割し、その中で固体の部分と流体の部分は画像の輝度値として表現し、スムーズにつなげます。これによって形状もスムーズに表現でき、そこから流体計算を実施しました。これは、現在脳血管などにも使用されている方法です。従来の計算格子生成が不要で格子サイズが一定なため、計算精度の調整が容易というメリットがあります。

 

これを左房に応用し、画像をベースに左房の形状をおこして、四角いボックスの中に埋め込み、動いている壁面の情報をこの中に入れ、血流の流れの計算が出来るというシステム作成に取り組んでいます。 動態を推定した壁面の形状を使って流体計算を行うことによって、ほぼ自動的に流体計算のフェーズをクリアすることが可能となります。これによって、今後、数千例の大規模な計算を通常のコンピューターで行うことが期待できます。

 

なお、大谷先生は、循環器領域以外でも、計算バイオメカニクスを使って臨床現場における力学を説明、応用する研究を精力的に行っていらっしゃいます。

 

※この研究は、大阪大学大学院基礎工学研究科 和田成生先生、Johns Hopkins大学医学部 足利洋志先生の下で行った研究によりまとめられています。

L-100671-01

カテゴリー 業界