Yui Takahara 11月 3, 2015

骨からヒントを得た、生体工学的デザイン

極限まで効率化されたデザインを創造する際、自然の構造にヒントを得るというエンジニアは少なくありません。長い進化の過程で最適化された自然界の設計は、今日のデザイン、工学に関わる問題にも解決法を示してくれるもの。トヨタの軽量カーシートの構造も、実は骨に発想を得て生まれました。

 

マテリアライズの3Dプリント用ソフトで実現、トヨタの軽量カーシート

3Dプリントされたカーシートは、3Dプリントをテーマに今春ブリュッセルで行われた特別展示会にも出展。

 

アイデアを3Dプリント可能なデータに変換するべく、豊田中央研究所の川本敦史氏がカーシート設計に取り入れたのは、特別なトポロジー最適化技術。トポロジー最適化とは設計空間に加わる一定の荷重の組み合わせと材料特性に基づき、指定したエリアの重量を削減する構造最適化技術のことを指します。

 

豊田中央研究所の川本敦史氏、マテリアライズ世界会議にて

豊田中央研究所の川本敦史氏には今年4月にベルギーで行われたマテリアライズ世界会議にもご出席いただき、このカーシート制作について発表いただきました。

 

グレースケールを用いて材料密度の高い部分と低い部分を表現したデータはまず、通常CTスキャンの三次元データ化等に用いられる生体工学用ソフトMimicsに読み込まれ、三次元データに変換。 シート全体の非常に細かな格子構造は、三次元データの複雑な編集が可能なソフト3-maticSTLにより追加されたテクスチャです。3-maticSTLの編集機能により追加された突起加工は、柔らかい座り心地を確保するためのもの。さらに密度の極端に低い部分もうまく3Dプリントできるよう、3-maticSTLには本プロジェクトのため特別に開発された新機能を追加。新たな格子構造配置はシートの熱をより効率的に分散させることを可能にしました。

 

マテリアライズの3Dプリント用ソフトで実現、トヨタの軽量カーシート

非常に細かな格子構造が組み合わさって軽量化を実現しています。写真提供:株式会社豊田中央研究所

 

250GBの大容量データを36MBにまで縮めたスライス技術

こうして出来上がったトヨタの軽量カーシートは、膨大な数の格子構造が複雑に絡みあうデザインに。その複雑さゆえシートのデジタルデータは非常に大きく、通常3Dプリントに用いられるSTL形式のデータに変換することはぼぼ不可能なものとなっていました。

 

Toyota-3D printed lightweight car-seat-1

 

この課題解決のカギになったのは、造形用データ準備を簡略化するマテリアライズのソフトウェアBuild Processor(ビルドプロセッサ)。パワフルなスライス機能を持つこのソフトを用いることで、立体形状をSTL化することなく、スライスされた平面レベルで表現することが可能になりました。また格子構造やテクスチャ情報はメタデータとして保存されるため、元の3DデータをそのままSTL化した場合と比べると格段に軽く扱いやすいデータが出来上がります。

 

トヨタのカーシートを出力した、粉末焼結3Dプリンタ。

トヨタのカーシートを出力した、粉末焼結3Dプリンタ。©Flanders Investment & Trade

 

この軽量カーシートの場合、スライスベース技術で処理した後のメタデータは36MB。元々の立体データをSTL化したとすると250GB程度の非常に大きなファイルになるだろうと予想されていたのですから、スライスベース技術でどれだけファイル容量が小さくなったかがよくわかります。造形可能な容量まで小さくなったカーシートのデータはこの後、レーザー粉末焼結技術を使い3Dプリントされました。

限界を超えるデザインへの挑戦

完成したカーシートは初期デザインと比較して75%の体積減となり、質量も25kg から7kgへとダウン。同時に熱容量を35.4から14.5J/Kへ削減することにも成功しました。 3-maticSTL新機能開発にもつながったトヨタのカーシート。その複雑で大きなデータの扱いにはビルドプロセッサのスライス技術が活躍するなど、マテリアライズの多様な3Dプリントソフトの特長を組み合わせたからこそ実現したプロジェクトとなりました。今後も豊田中央研究所は斬新なコンセプトを立体化する手法として、トポロジー最適化と3Dプリントを活用していく予定です。

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