マテリアライズのリサーチャー兼エンジニア、ジョヴァンニ・ヴレミンクスの机に並んだ、大量の3Dプリンタ製パーツ。実はこれ、HPが開発した話題の新型3Dプリンタ「HP Jet Fusion(ジェット・フュージョン)4200」を用いて出力したテストパーツなのです。マテリアライズはこのHP製新型3Dプリンタを導入・テストするチャンスを得た、数少ないパートナー企業のひとつ。市場の大きな期待を背負うこの3Dプリンタを使った造形テストの様子と、その結果をお伝えします!

「2016年の11月、formnext(ドイツで開催される世界最大級の製造業向け展示会)で初めてHPの3Dプリンタを目にした時は、まずその小ささとデザイン性に驚いた。僕が普段使う業務用大型3Dプリンターの中にはデザインを優先して作られているものは少ないから、HPのマシンは良い意味で驚きだった」と語るのは、マテリアライズのリサーチャー兼エンジニアとしてHPとの共同テストに携わるジョヴァンニ。
彼は3Dプリンタを使用し始めて最初の感想として、こう述べています。「新型3Dプリンタの正式発売前にこの技術をテストして、今後の機能改良点をHPと共同で分析するチャンスを得られたことには興奮しているよ。まだこのマシンを使い始めて数週間だけど、稼働状況は安定している。造形開始後はもう継続的にモニタリングする必要はないと感じるね」
「業務用大型3Dプリンタの中にはデザインを優先して作られているものは少ないから、HPのマシンは良い意味で驚きだった」
HP Multi Jet Fusion 3Dプリント技術の仕組み
HPの開発した3Dプリント技術「Multi Jet Fusion(マルチ・ジェット・フュージョン)」は、レーザーは使わず粉状の材料をベースに造形する、全く新しい3Dプリント法。造形の仕組みを簡単に説明すると以下のようになります。
- 3Dプリンター内の材料を均一に熱する
- 材料を融解すべき箇所に融剤を噴射
- パーツの輪郭に沿って解像度を上げるためのコーティング剤を噴射
- プリンター上部のランプが左右を移動しながら材料をさらに加熱
- 融剤とコーティング剤が熱の吸収・分散を促進
- 造形完了後は、後加工用の別マシンでパーツを冷却
レーザーを使わないこの造形技術の特長は、各層の造形にかかる時間が均一であること。そのため正確な造形時間の計算が可能になるという訳です。
現在テストに使用されているのは「PA12」と呼ばれるポリアミド(ナイロン)素材。細かな粉粒子が特長であるこの材料を用いることで、80ミクロンの極めて薄い積層ピッチが実現します。
HPマシンで造形したパーツを日々観察しているジョヴァンニは、次のように解説してくれました。
「積層ピッチを薄く保てば、同じ材料で厚めのピッチで造形した場合と比べて高密度で多孔性の低いパーツが出力できる。造形したパーツの表面は後加工なしでもかなり滑らかだから、将来パーツによっては造形後の研磨がいらなくなるかもしれないね。造形直後のパーツはグレー色をしているから、染色にも最適だ」
HPマシンの造形テスト、その現状と今後
造形テスト開始直後から、HPはマテリアライズのソフトウェア開発部と製造部、2つのチームと緊密に連携。ソフトウェア開発部はMulti Jet Fusionマシンとマテリアライズのデータ準備用ソフトウェア製品群をシームレスにつなぐ「HP Build Processor」をHPと共同開発しています。
HP Build Processorの特長は、3Dプリント用ソフトウェアと3Dプリンタをスムーズに連携させること。このソフトウェアをマシンとの通信に使うことで、ユーザーはマシンに適した造形設定をもとにを造形プラットフォームを準備でき、マシンへのデータ送信も簡易化されます。
「マテリアライズが早期にHPマシン専用のソフトウェア開発に関れたことの意味は大きい」と語るジョヴァンニ。「マテリアライズのソフトウェアユーザーは、HPの新型3Dプリンター導入時にも有利なスタートを切れる可能性が高い」と今後を示唆するコメントを残してくれました。
「マテリアライズのソフトウェアユーザーは、HPの新型3Dプリンタ導入時にも有利なスタートを切れる可能性が高い」
一方HPとマテリアライズのエンジニアらは大量のテストパーツを設計。寸法精度チェック用にはヒンジ付き(精度が低いとヒンジ部分の隙間が埋まり、可動性が失われてしまう)、パーツの表面の品質チェック用には3Dテクスチャ付きなど、目的ごとに異なるパーツを作成しました。また全く同様のパーツを用いて造形方向だけを変え、造形の均一性を計るテストも行われています。



HPとフィードバックを交換しながら、お互いの優先事項と今後最も重要となる機能改良部分を見極める作業は、ジョヴァンニにとって非常に充実した経験になったといいます。
「これまでに行ったHPとの共同テストは、造形プラットフォーム内の最適な造形エリア拡大や、寸法精度の改善などを目的にしたもの。ソフトウェアチームも似たようなプロセスでHP Build Processorのテストを繰り返している。マテリアライズからのフィードバックを有効活用してくれるHPには、とても感謝しているよ。HPのサポートチームは人数も多く、いつもこちらのフィードバックに熱心に耳を傾けてくれるんだ」


HP Jet Fusionマシンで3Dプリントされたインソールが注目を集めていた様子。日本でも発売開始が待たれるHP Jet Fusion マシンの詳細はこちらを、HPマシンのパワーアップを支援するMaterialise Build Processor詳細はこちらをご覧ください。