Yui Takahara 6月 3, 2015

米国ミシガン州、デトロイト・メディカル・センター(DMC) 付属小児専門病院「ミシガン小児病院」。17歳のアリアナ・スミスさんはここで、3Dプリンタ製心臓モデルを用いたミシガン州初の治療を受けました。彼女が患っていたのは、複雑で大きな大動脈瘤でした。

 

治療を受けたアリアナさんと主治医の小林大介医師、ターナー医師。
治療を受けたアリアナさんと主治医の小林大介医師、ターナー医師。

 

事態が発覚したきっかけは2014年11月、アリアナの母親が4人の子どもに受けさせた心電図の検査。以前息子の一人に心雑音が発見されたため「念のため」と受けさせた検査でした。 チアリーディングやバレーボールを楽しむなど活動的なアリアナでしたが、この検査の結果大動脈に異常のある可能性が指摘されます。ミシガン小児病院を紹介された彼女がここで受けたのは、症状の診断、治療の可能性を見据えた心臓カテーテル検査。 心臓カテーテルは珍しい検査法ではないものの、これがアリアナの巨大な大動脈瘤を発見する決め手に。事態を更に複雑にしたのが、通常以上に曲がりくねって複雑な形をした蛇行性大動脈でした。この2つの要素は将来、彼女の命を奪いかねないものです。 「この知らせを聞いて、私たちは打ちのめされるような気持ちでした。アリアナには症状は全く無かったから。この種の瘤は知らない間に進行する『無言の殺人者』として知られているんですね。それでもきっとよくなると希望を捨てず、皆で完治を祈りました」アリアナの母、ジャクリーンさんは当時の事を振り返って語ります。

 

アリアナの治療を担当し、マテリアライズと共同で臓器モデルを3Dプリントしたミシガン小児病院のチーム
アリアナの治療を担当し、マテリアライズと共同で臓器モデルを3Dプリントしたミシガン小児病院のチーム

 

ミシガン小児病院でこの治療を担当したのは、心臓専門医の小林大介先生。「最良の結果を出せる治療法を見極めるため、アリアナのケースについては小児心臓血管外科の医師や他の循環器医と何度も話し合いました。彼女の年齢と身体の構造を考えると外科的治療はリスクが高く、彼女の大動脈に合併症が発生する可能性がありました」 小林医師を始めとしたミシガン小児病院心臓専門医らがたどり着いたのは「ステントグラフト」を用いた治療の可能性でした。ステントグラフト内挿術とは、金属のついた人工血管(ステントグラフト)をカテーテルを用いて血管内部から挿入する治療法。瘤のある部分で留置すると、大動脈が広がって瘤をブロックし、瘤の破裂を防ぎます。

 

金属のついた人工血管をカテーテルを用いて血管内部から挿入する、ステントグラフト内挿術。
金属のついた人工血管をカテーテルを用いて血管内部から挿入する、ステントグラフト内挿術。

 

ミシガン小児病院は、COAST II trial (COarctation of the Aorta Stent Trial、大動脈狭窄ステント試験)と呼ばれる研究プログラムに参加している、米国でも数少ない病院の一つ。アメリカ食品医薬品局(FDA)の許可を得ているこの研究では、ステントの内膜に特別な加工を施して大動脈狭窄や大動脈瘤の治療に用います。 ステントグラフト内挿術を使えば、大動脈閉塞と大動脈瘤を両方治療できる可能性があります。ただし慎重な処置を必要とするこの治療法がうまく行かなかった場合には、深刻な合併症が引き起こされるリスクもありました。 この複雑なケースに対処するため、小林先生を始めとした心臓専門医のチーム(リチャード・ヒュームス医師、トーマス・フォーブズ医師、ダニエル・ターナー医師)はCT画像を用いてアリアナの心臓のモデルを3Dプリントする、画期的なツールの使用を決定。 心臓モデルが製作されたのは、ミシガン州プリマスにあるマテリアライズのアメリカ支社。画像診断装置Mimics® Innovation SuiteとHeartPrint®サービスを通じて、アリアナの大動脈のCTスキャン画像を本物さながらの3Dプリンタ製レプリカとして立体化しました。小林先生のチームはレプリカを使って実際の治療前にステントの挿入を訓練。こうしたシミュレーションを行えば、治療の潜在的な問題を洗い出し、ステントを挿入する位置を的確に判断する事ができます。

 

マテリアライズの画像診断装置Mimics® Innovation Suiteを用いて光造形で3Dプリントされたアリアナの臓器モデル。
マテリアライズの画像診断装置Mimics® Innovation Suiteを用いて光造形で3Dプリントされた、アリアナの臓器モデル。

 

「マテリアライズでは、より良く健康な世界を作るための技術を大切にしている。今回は我々のソフトウェアや3Dプリントサービスがミシガン小児病院のチームをサポートできた事、アリアナの命に良い影響を与えられた事を誇りに思うよ」と語るのは、マテリアライズ心臓血管事業開発マネージャーのトッド・ピエティラ。「今回はこの症例をサポートできて非常に光栄だ。今後の協力も楽しみだよ」 アリアナの治療に携わったターナー医師は、今回3Dプリントされた臓器モデルは症状の診断と問題の可視化をする以上の重要な役割を果たしたといいます。 「私たちは3Dプリントされたアリアナの大動脈モデルを使い、実際にカテーテル処置室でステントをモデルの中に挿入するシミュレーションをしたんだ。こうする事で、アリアナの珍しい身体構造、曲がりくねった大動脈に対してステントがどう反応するのか観察できた。実際の治療の際にはどんな事が起こるか、大分わかっていたよ」

 

 

通常アリアナのようなケースには外科手術が必要となります。手術にはより高いリスクが伴い、術後の不調が残る場合や、入院期間や授業の欠席期間が長引いてしまう事も。ですが今回カテーテル処置室で治療を受けられたアリアナは、病院で一晩を過ごした翌日には帰宅する事ができました。 「アリアナは今後も治療のために外科手術を受ける必要はないだろう。小林先生がしっかりと経過観察をしていくからね。この事例を経験した事で、我々は今後の患者も3Dプリントの力を借りてより安全に治療できると思う。今回のケースはまだ始まりにすぎない」とターナー医師。 アリアナはというと、病院での処置の後にはパンケーキを食べ、一日後には退院。一週間後には学校に戻って今は年度末のダンスパーティへ向けてショッピングを楽しめるまでに。 「神様とミシガン小児病院の全ての先生方に感謝します。アリアナの状態はとても良好。この治療は他のどこでも受けられなかったと思います」アリアナの母親ジャクリーンさんは安心した様子でした。

心臓血管症例のブレイクスルーとなった今回の事例に関してより詳しくは、ミシガン小児病院のウェブサイトから。今回ミシガン小児病院でこの治療を担当した、心臓専門医の小林大介先生はこのブログ公開後に日本語でのウェビナー「先天性心疾患治療における3Dプリントモデルの有用性」の公開にご協力くださいました。3D臓器モデル活用法について詳しく解説が聞ける貴重な機会。ぜひご覧ください。 *HeartPrint®は米国とEU圏内で医療機器として認証登録されています。

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