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日本での院内3Dプリンティングサービスの導入と運営

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日本ではまだ数が少ないセンター化された院内の3Dプリンティングサービス。北海道大学病院では、2003年に「歯科技工室」が「生体技工部」へと改編され、その後、生体技工部に3Dプリンターが設置されるようになりました。そして現在では、生体技工部が歯科分野だけではなく医科分野も含め、院内全体の3Dモデル作製を担っています。年間の製作依頼件数は、年々増加し2020年には180件以上となりました。 当院の3Dラボの本格的なスタートは、2013年にさかのぼります。3Dラボ導入の経緯から、現在までの8年間について、生体技工部の西川圭吾さんにお話を伺いました。

歯科技工部が院内の3Dラボの役割を担うようになったきっかけを教えてください。

北海道大学病院では、2008年に口腔外科の研究費でスターチ製の3Dモデルを作製できるプリンターが導入され、口腔外科の術前シミュレーションへの応用について研究を重ねていました。このプリンターの買い替えに伴い、2013年に病院予算(高額医療機器購入予算)が採択され、本格的な3Dプリンターと併せて、MaterialiseのソフトウェアパッケージMimics Innovation Suite(以下、Mimics)が導入されました。そして、同年に 3Dラボ運用マニュアルが作成され、本格的な運用が開始されました。 生体技工部が3Dラボの役割を担うまでは、口腔外科や整形外科の医師が自ら3Dソフトウェアを使いモデルを設計していました。しかしながら、医師はソフトウェア操作を習得し、設計に割く時間も多くは取れませんでした。そのため、モデル作成までのリードタイムが長く、3Dプリンターを効率的に運用することが出来ていませんでした。そこで、生体技工部がソフトウェアの本格的なトレーニングを受け、モデルの設計を担当するようになりました。これにより、医師の負担は軽減され、3Dプリンターの稼働率が大幅にあがりました。症例数の増加、さらには複雑なモデル作製が増えたことで、おのずと生体技工部の技術の向上にもつながりました。

ラボで使用しているソフトウェアについて教えてください。

スタートした当初は、主にMimicsを使用していました。DICOMデータの取り込み、関心領域の抽出、STLデータへの変換や詳細な編集がこれ一つで行えます。また、2020年には、顎顔面領域の3Dシミュレーションソフトウェア、ProPlan CMFTMを導入しました。私たちにとって、ソフトウェアの使いやすさや機能性はもちろん重要ですが、これらのソフトウェアが信頼性基準に則った医療機器の認証を取得していることも、選択する上で欠かせない点でした。

依頼からモデルの完成まで、実際にどのような流れで3Dラボを運用されていますか。

造形を依頼する医師が放射線部にDICOMデータを依頼します。データはCD-Rに入れられ、3Dラボに持ち込まれます。Mimicsにデータを取り込んだ後、造形範囲、分割、着色の有無などの詳細を担当医師と確認します。MimicsでDICOMデータから3次元モデルデータを作成し、3Dプリントします。3Dモデル完成後、DICOMデータと一緒に医師へ引き渡します。

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医師と生体技工部スタッフで、モデルの詳細を打ち合わせ

3Dラボの認知度や依頼件数を上げて継続運用するために、どのような取り組みをされましたか。

運用開始当初は依頼件数が少なく、採算も取れていませんでした。そのため一時は、その存続が危ぶまれるほどでした。そこで、外注費用との比較や採算性、納期、要求に合わせたモデル作製の有効性など、長期的なメリットを示せる様々なデータを用意しました。これらの裏付けデータを元にしたプレゼンテーションや話し合いを重ねることによって、病院の了解が得られ、短期的な数字だけで判断されずに運用を継続させることが出来るようになりました。

そして、院内での3Dラボの認知度を上げるために、生体技工部のスタッフみずから、3Dソフトウェアやプリンターを使ってどんなものが作れるか、各診療科でどんなメリットが期待できるかを説明して回りました。初めはあまり期待していない医師もいましたが、試しに使ってもらうことでその必要性や有効性を実感してもらえ、継続使用につながることが増え、手ごたえを感じるようになりました。

院内に3Dプリントラボがあるメリットは何だと思いますか。

外注するよりも安価になったことはもちろん、担当医との密接な打ち合わせが可能であるため、より精度の高いモデルが作製できるようになりました。また、納期が短縮されたことで、必要な時にいつでも使用できるようになり、緊急手術の準備など3Dモデルの活用の場が大きく広がりました。 一般的に、3Dプリントされた臓器モデルは術前の手術計画やシミュレーションに有用性が認められており、「実物大臓器立体モデルを用いた手術支援」として、整形外科や形成外科などの領域の一部の手術での使用で保険適用されています。当施設では、より確実に短時間で手術が行え、入院期間の短縮に伴うベッド稼働率の向上が認められています。特に複数診療科で行う難症例では、3Dモデルはより適切で安全な手術を行う上で欠かせないものになってきています。

依頼件数の推移や、最近の依頼ケースの傾向を教えてください。

運用スタート当初から現在も年間を通して口腔外科からの依頼が最も多くなっています。先の取り組みによって、3年目から依頼を受ける診療科が増え始めました。それに伴って依頼件数も一気に増え、ここ数年150件以上を維持しています。2020年には、180件を超え、現在も増加傾向にあります。近年依頼を受ける診療科は、口腔外科以外では、口腔内科、整形外科、形成外科、脳神経外科、耳鼻科などに渡ります。

また、最近の傾向として顕著なのは、複数の診療科にまたがる複雑な症例のモデル製作依頼が増えたということです。複雑な症例ほどモデルの有用性が認知され、現場で必要とされていることを実感します。

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脳神経外科の脳静脈奇形の樹脂3Dモデルで、石膏3Dモデルと組み合わせたもの

コロナ禍で3Dラボはどのような役割を果たしましたか。

不足したフェイスガードを2020年4月~5月までの1か月間で、322個作製し、22の診療科に配布しました。また、Materialiseがオンラインで無料公開していた、ハンズフリードアオープナーのSTLファイルを当院のドアに合わせてデータを編集し、プリントしました。院内の主要なドアに設置することで、新型コロナの院内感染対策に貢献することができました。この取り組みによって、生体技工部は、2021年3月に北海道大学総長表彰を受賞しました。

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Materialiseがオンラインで公開していた、ハンズフリードアオープナーのSTLファイルを当院のドアに合わせて編集して活用

今後の展望を聞かせてください。

これまでの8年間で、3Dラボの有用性が理解され、院内でなくてはならないものとして認識されるようになりました。本年より、耳鼻科、放射線診断科とのコラボレーションで「光免疫療法の治療シミュレーションファントムモデルの開発」を始め、新たな治療をサポートする3Dモデルの製作も3Dラボの役割として追加されており、複数科の手術シミュレーションモデルの開発案もスタートしています。また、ダブルスプリントの製作による顎変形症手術がシステム化され、より効率の良い治療が実践されてきています。

今後も、MimicsやProPlan CMFTMを応用して、より複雑なモデル作製に対応するために、引き続き技術の研鑽を積むと共に、より質の高い医療に貢献できる新たな3Dラボの在り方を模索していきたいと思います。


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