Yui Takahara 11月 25, 2016
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通常人体の構造を研究するために使われるソフトウェア「Materialise Mimics」。しかし中にはステファン・ブルサット博士のように、このソフトを人間以外の研究に応用する方も。エディンバラ大学脊柱動物の古生物研究グループのリーダーも努める博士の研究対象は、恐竜の化石。なかでも博士が情熱を傾けるのは恐竜の王とも呼ばれる獰猛な肉食恐竜、ティラノサウルスです。そんな博士が Materialise Mimics で化石を3D可視化して初めて明らかになった、ティラノサウルス進化過程に関する新事実とは?

 

A reimagining of the new tyrannosaur Timurlengia euotica

© Scientific American; original painting by Todd Marshall

 

非常に長い時間をかけて恐竜がどのように進化していったかを調べるブルサット博士の研究のポイントは、年代を超えたパターンや傾向を解き明かすこと。それを可能にする唯一の方法は、化石を解析することです。そのためブルサット博士の研究のスタート地点はいつも古生物学的掘削現場。死後長く地下に埋もれていた生物の骨を探し出すことから研究が始まります。

 

同僚とニューメキシコ州で化石の採掘作業にあたるブルサット博士

同僚とニューメキシコ州で化石の採掘作業にあたるブルサット博士

 

化石を手に研究室に戻るとブルサット博士は、その恐竜がまだ生きていた当時の様子を正確に再現すべく化石を詳しく分析する作業に取り掛かります。ティラノサウルスやその近親種の恐竜は当時、どんな動きをしていたのか。当時のティラノサウルスの様子は、目の前の化石とどう結びついているのか。こうした謎を解き明かしていくブルサット博士にとって、最も重宝するのは頭部の化石。頭蓋骨は良い保存状態で発見されることが多いだけでなく、その内部を見れば血管、神経、副鼻腔、耳など全てが分析でき、豊富な情報を手に入れる鍵となるからです。

 

発見されたティラノサウルス化石の一部と全体の骨格

© Scientific American; proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America

 

これまで頭蓋骨の内部を調べるためには実際に頭蓋骨の化石をカットし、「開頭」作業を行う必要がありました。しかしこの作業のために標本が損傷を受け、貴重なデータが失われてきたことも事実。スキャンと3D技術の開発は、こうした古生物学者の悩みを解決する救世主となりました。

 

シカゴ、フィールド自然史博物館に展示されたティラノサウルス頭部の骨のアップ。出典:Wikipedia

シカゴ、フィールド自然史博物館に展示されたティラノサウルス頭部の骨のアップ。出典:Wikipedia

 

ブルサット博士はスキャンした化石をもとに、Materialise Mimics で標本の3Dモデルを製作します。精巧な3Dモデルを使えばコンピューター上で化石の構造を隅々まで調べられるので、元の標本を傷つける心配もありません。さらに共同作業が必要なら、同僚のパソコンへ化石のスキャンデータを送信するだけ。 ブルサット博士は次のように語ってくれました。「化石のCTスキャンは我々にとって、なくてはならないものとなりました。CTスキャナーは今ではカメラやキャリパー(測定器)と同様、化石の研究における標準ツールとなったと言っても過言ではないでしょう。CTスキャンのデータを3Dモデルとして再構築する、優れたソフトウェアや3Dプリンタ―も同じく今日の古生物研究には欠かせないものです」

 

エディンバラ大学脊柱動物の古生物研究グループ、スティーブン・ブルサット博士

エディンバラ大学脊柱動物の古生物研究グループ、スティーブン・ブルサット博士

 

ブルサット博士は現在、小型種ティラノサウルスの研究に取り組んでいます。しかし小型種の化石化した骨が発見された当時、ティラノサウルスとこの小型種との関係はすぐに明らかにはなりませんでした。双方の関係性が証明されたきっかけは、博士が化石をスキャンし、その立体モデルを3Dプリンターで出力したこと。小型種の3Dモデルを調べると、脳腔、副鼻腔および耳の形状全てにおいてティラノサウルスと驚くほどの類似性があることがわかったのです。

 

イリノイ州のバーピー自然史博物館に展示されたティラノサウルスの全体骨格

イリノイ州のバーピー自然史博物館に展示されたティラノサウルスの全体骨格。実際のティラノサウルスは、私たちの知るこうした大型種のみではないことが今回の研究で明らかになりました。出典:Wikipedia

 

ブルサット博士が挑むティラノサウルス進化過程の謎解きパズル。小型種の発見で、その新たなピースがひとつ埋まったことになります。おそらく元々小型肉食種だったティラノサウルスは、その発達した頭脳と鋭い感覚ゆえに進化を遂げていったのでしょう。長い長い時間をかけ、彼らはやがて、史上最恐の恐竜の王へと進化することになるのです――。

 

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