Yui Takahara 3月 8, 2017
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アルプス山中で殺害され、死後5300年もの間氷河の中で眠っていた男性のミイラ「アイスマン」。このミイラの研究を通じて石器時代後期の人々の生活や文化、健康状態が明らかになってきたものの、彼の死因を含め未だ多くの謎が残っているのも事実です。

今月11日(土)にNHK で放送される「よみがえるアイスマン~科学とアートが明かす謎~」は3Dプリンターを用いたアイスマンの実物大レプリカ作成過程を追ったドキュメンタリー。研究者やアーティストと共にこの一大プロジェクトを任されたマテリアライズは、どうやって超精巧なレプリカを3Dプリント可能にしたのでしょう?番組放送前にその舞台裏を少しだけお伝えします。

紀元前3300年の生活を伝える「氷の中からやってきた男」

今から約5300年前、背中に矢で刺されたような跡があることから、何者かに攻撃され山中に倒れたと考えられるアイスマン。凍結した彼の身体は自然にミイラ化し、1991年にアルプス登山中だった観光客夫婦に発見されるまで、氷河の中で眠っていました。

イタリアとオーストリアの国境付近、エッツタールアルプス山中で発見されたことにちなんで「エッツィ」や「氷の中からやってきた男」とも呼ばれるこのミイラ。ほぼ無傷のまま5300年前に生きた男性の姿を残しているアイスマンは、石器時代の人々の生活や身体構造を知るための貴重な手がかりを与えてくれます。紀元前3300年当時の人間がどんな衣服に身を包み、どんな食事をしていたのか、現在我々が推測できるのはアイスマンのおかげでもあるのです。



iceman found in the alps.png

スキャンなどを用いてミイラの身体構造を詳しく調べることで、この男性が生きていた頃の健康状態も解明されてきました。例えば動脈硬化の傾向が見られることからおそらく彼は心臓疾患を患いやすい体質であったこと、消化管に腸内細菌が生息していた形跡があることから、胃腸炎を起こしていた可能性があることなどが明らかになっています。

専門家による研究が進んでいるのは、その体内だけではありません。ヤギ革のコート、熊の毛皮で作られた帽子、刺青など、その全てが遠い昔の文化を紐解くことにつながるアイスマンは、多くの研究者にとって「値段のつけられないほど貴重な資料」なのです。

しかし世界に存在するアイスマンは当然ながら一体だけ。その一体はイタリア、南チロルの博物館に保管され、冷凍庫の中で厳重に管理されているため、多くの人が鑑賞・研究できるとは言い難い状況です。

そこで米ニューヨーク州の「DNAラーニングセンター」はアイスマンのレプリカ作成と展示を決定。彼らがマテリアライズに協力を要請したことで、3Dプリンターを用いた世界初の実物大アイスマンレプリカ作成計画が始動します。


科学とアートを駆使した、本物さながらのレプリカ

この一大プロジェクトを任されたのはアメリカ人アーティストのギャリー・スターブ氏。考古学資料の精巧なレプリカ作成を専門とする彼は、以前マテリアライズと共にツタンカーメン王のミイラのレプリカを3Dプリントで製作した人物でもあります。その際のコラボレーションをきっかけに、スターブ氏とマテリアライズは今回のアイスマンレプリカ製作でもタッグを組むことに。
 

3D printed mummy.jpg


ミイラのCTスキャンから始まり、スキャン画像の3Dモデル化、3Dプリント造形、実物の色や質感を精巧に再現する手作業での後加工を経て完成するレプリカは、先進技術と高度な芸術性を組み合わせて初めて可能になるものです。ギャリー氏は「マテリアライズがスキャンデータの立体化や3Dプリント準備を全て担当してくれたおかげで、素晴らしい精度の3Dプリントができあがった。造形後僕がさらなるディテールを加えることで、非常にリアルなレプリカができあがるんだ」と解説しています。


アイスマンがCTスキャンされてから3Dプリントされるまで

実寸大レプリカ製作最初のステップは、実物のミイラをCTスキャンにかけること。CTスキャンデータを3Dモデル化することで、細部まで本物を再現したレプリカが3Dプリントできるためです。

生きている人間の身体のCTスキャン画像を立体化するのは、マテリアライズの開発したソフトウェアMaterialise Mimicsの得意とするところ。ただし死後5300年経った身体のスキャン画像処理となると、そう簡単には行かなかったようです。
 

iceman on materialise mimics.png


「合計2827枚のスキャン画像データをMaterialise Mimics上で立体化してつなぎ合わせたら、本物のアイスマンの全長と3Dモデルの間に誤差が生まれてしまった。そこで頭部が正しい位置来るよう微調整を行うと、3Dデータに細かな隙間が複数あるのがわかったんだ」と語るのは、このプロジェクトを担当したマテリアライズのエンジニア、エリック・レンテリア氏。3Dデータ上にできた小さな隙間、合計86箇所全てをMaterialise 3-maticを用いてひとつずつ修復し、ようやく3Dプリントの準備が整いました。


iceman 3D printer.jpg


レプリカの3Dプリントに使われたのは、マテリアライズが自社開発した世界最大級の3Dプリンター「マンモス光造形機」。約2mの巨大3Dプリンターを利用することで、約165cmのアイスマンの3Dデータを分割することなく、一度に造形することが可能になりました。巨大3Dプリンターでアイスマンが造形される様子は上記のビデオでもご覧いただけます。


stereolithography mummy.jpg


3Dプリント完了後はアーティスト、ギャリー氏の出番。彼の類まれなるスキルで、アイスマンの色や質感が本物そっくりに再現されます。「従来の手作業での測定ではなく実際のCTスキャンを用いて3Dプリントすることで、レプリカはぐっと正確さを増す。だからこそ僕は非常に細かなディテールの再現に集中できるんだ」と語るギャリー氏が、本物さながらのレプリカを作り上げる様子は圧巻。ぜひ土曜日放送のドキュメンタリー内でご覧ください。
 

【番組情報】
3月11日(土) 午後7時00分 放送
NHK Eテレ
地球ドラマチック「よみがえるアイスマン~科学とアートが明かす謎~」
番組ウェブサイト

英語版ドキュメンタリーは、YouTube上でもご覧いただけます。
 

3D printed iceman replica DNA Learning Center.jpg